ドクターインタビュー

DOCTOR INTERVIEW

健康で充実した生活を送れるようサポート

神経内科

吉井 康裕部長

YASUHIRO YOSHII

脳や神経の疾患に対する総合的な治療

神経内科では脳や神経、脊髄の病気の診断と治療を行います。主な疾患としては、認知症・パーキンソン病・てんかん・脳梗塞・脳出血・髄膜炎・脊髄炎などがあります。稀な疾患である多発性硬化症やALSと呼ばれる筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症なども診療を行っています。

体の動きや感覚、言葉や記憶に異常が見られる場合は神経内科の病気を疑ってください。よく見られる症状としては手足に力が入らない・歩行障害・頭痛・めまい・しびれ・震え・言葉の遅れ・むせるなどが挙げられます。神経内科ではこれらの症状を総合的に診断し、適切な治療を提供します。

神経内科と混同される診療科に精神神経科があります。精神神経科では精神的な原因による気分の変化や身体的な症状を扱います。内科的な原因が不明確な場合は、まずは神経内科を受診することをおすすめします。

加齢に伴う正常なもの忘れと認知症の診断

当科では認知障害に関する専門外来「もの忘れ外来」を設置しています。もの忘れ外来では、すぐに忘れてしまうといった症状が「加齢に伴う正常なもの忘れ」なのか「認知症の入り口」なのかを診断します。外来では初めに、問診と身体診察を行います。患者さんが何時からどのような症状に気づいたのか、症状の進行具合などを詳細に問診し、その後に身体診察を行います。

問診と身体診察で認知症や脳梗塞のような脳の異常を疑った場合、MRI検査やSPECT検査などの追加検査を行います。パーキンソン病・軽度認知障害(MCI)・レビー小体型認知症などの診断には、MIGBシンチグラフィやDATスキャン検査を含む、特殊な核医学検査をお薦めすることがあります。

認知症以外の症状も考慮

患者さんが来院するきっかけは様々です。ご自身でもの忘れを気になされたり、身近な家族から指摘をされたりして受診される方もいらっしゃいます。若い年代の方でも、認知症を心配されて来院されることがあります。若い方の場合は、職場でのストレスや適応障害であるケースが多いですが、稀に若年性アルツハイマー型認知症の方もいます。

通常外来受診時には付き添いの方と同伴をお願いしていますが、お一人で来院される患者さんもいます。ご本人が一人で来院できる場合は、その時点で認知症ではない可能性が高いですがその症状について詳しく話を伺っています。実際に話を聞いてみると、実はパーキンソン病やうつ病など認知症とは別の疾患であることも多くあります。うつ病は当科の専門分野ではありませんが、患者さんが抱える心の問題に対して適切な診療科をご紹介しています。また、生活上のストレスが認知症のような症状を引き起こしている場合には、法的な相談先を紹介したり、心療内科や精神科への受診を薦めたりしています。

症状の理解と具体的なアドバイスを通じたケア

患者さん一人ひとりが抱えるさまざまな症状やお悩みを、深く理解することが重要だと考えています。患者さんが当院を訪れる理由は、単に病名を知りたいからではありません。実際に日常生活で困難を感じており、その解決策を求めているからです。診断をして終わりではなく、患者さんがこれからどう対処をしていけば良いのかを、具体的にアドバイスすることが重要と考えています。

ご家族や配偶者が患者さんとご一緒に来院される場合もあります。ご家族や配偶者にとって、その患者さんはかけがえのない大切な存在です。私たちは、大切なご家族をお預かりしているという責任感を持って診察にあたっています。適切な診断をできるだけ早く行い、最も適した治療を提供することが私たちの使命です。治療の過程で患者さんとその家族に寄り添うことで、信頼関係を築き、一人ひとりに合わせたケアを提供することを心がけています。

自立した生活をサポート

私たちの役割は患者さん一人ひとりが健康で充実した生活を送れるようにサポートすることです。患者さんが平均寿命まで、できればそれ以上の年齢まで元気で活動的な生活を続けられるようにすることを目指しています。日本の現在の平均寿命を考えると、男性であれば81歳、女性であれば87歳が目安ですが、私の願いは、患者さんがそれぞれの平均寿命を健康で迎えられるようにすることです。

私たちが目標とするのは、単に長生きをすることだけではありません。大切なのは「質の高い生活」を送ることです。自分の足で歩ける能力は非常に重要です。歩行能力が低下すると日常生活に大きな支障が出ます。トイレに自分で行けなくなると生活の質が大幅に低下し、介護が必要となり、場合によっては施設への入所が必要になることもあります。独立して生活を送るためには、歩けることが非常に大切です。

神経がもたらす多彩な症状に興味を抱く

私が医師を志したのは、中学3年の時に祖父を亡くしたことがきっかけです。人がなぜ病気になり、なぜ亡くなるのか、ということを考えるようになり、医学に興味を持ちました。東京の大学で学んだ後、アメリカでの医療実践にも携わりました。

神経内科を専門に選んだ理由は、はじめは好奇心からだったのですが、学校での勉強の中で最も面白いと感じたのが神経内科だったからです。多様な症状が現れ、病気の種類も非常に多いため、普段の生活では見かけないような症状が教科書に満ちていました。くねくねした動きや不随意運動など想像しがたいような症状に興味を抱きました。

神経内科の勉強は難しいものの、神経の経路や脳・脊髄・末梢神経の流れ、そしてどこに病気があるかによって症状が大きく変わることが魅力でした。病気の起こり方も様々で、血管の詰まりや炎症、変性などが絡んでくる中、神経がもたらす多彩な症状に興味が湧きました。

神経内科には治り難いと言われている難病も多く存在し、教科書には治療法がないと書かれていることもあります。その中で少しでも爪痕を残したい、自分なら何かできるのではないか?と思うようになりました。

根治が難しい症例でも、可能な限りの治療を

どんなに難しい症例であっても可能な限りの治療を行います。他の病院では手をつけづらいケースでも、当院では入院施設も完備しており、最後まで責任を持って患者さんを診ることができる体制が整っています。神経内科の疾患は治りにくい側面がありますが、患者さんの状態を可能な限り維持し、サポートすることで、ご本人とご家族の満足度を高めていきたいと思います。

開業医の先生には難解な症例、よくわからない症例など、積極的に送っていただければできる限りのサポートをいたしますので、是非ご紹介いただければと思います。根本的な解決が難しい場合でも、少しでも良い方向に向かうように道筋をつけたいと考えています。

アルツハイマー治験の取り組み

当科では治験を積極的に行っており、その中でもアルツハイマー型認知症の治験を多く実施してきました。アミロイドを分解する抗体薬など、最新の治療法に近い治験を積極的に行っています。最近ではアミロイドではなくタウタンパクをターゲットにした治験も行っており、世界の最先端に近い治験を継続しています。

アルツハイマーの診断には、PET検査や髄液検査が必要です。PET検査は高額な場合が多いですが、髄液検査の方は保険適応で入院が必要なく外来で行うことができるため、当院では積極的に行っています。

髄液検査で指標となるアミロイドβ42という物質は、認知症の診断だけでなく、アルツハイマー型認知症の予防にも活用できるのではないかと言われています。これまでの研究で、アミロイドβ42は認知症を発症する10年以上前から減少し始めることがわかってきています。当院では髄液関連のアルツハイマーの治験に関しても多く実施しています。

●認知症患者さんのケアのため、2北病棟で菜園を育てる取組みも行っています。
当院で実施された治験症例
2020年度
  • 軽度及び中等度アルツハイマー型認知症
  • 早期(PRODROMAL から軽度)のアルツハイマー
  • 早期アルツハイマー病患者
2021年度
  • 軽度及び中等度アルツハイマー型認知症
  • 早期(PRODROMAL から軽度)のアルツハイマー
  • 早期アルツハイマー病患者
  • MCI~軽度AD(小血管疾患有)
  • MCI~軽度AD
  • 軽度及び中等度アルツハイマー型認知症患者
2022年度
  • 早期(PRODROMAL から軽度)のアルツハイマー
  • 早期アルツハイマー病患者
  • MCI~軽度AD(小血管疾患有)
  • MCI~軽度AD
  • 軽度及び中等度アルツハイマー型認知症患者
  • アルツハイマー型認知症患者
2023年度
  • 早期(PRODROMAL から軽度)のアルツハイマー
  • 早期アルツハイマー病患者
  • MCI~軽度AD(小血管疾患有)
  • MCI~軽度AD
  • 軽度及び中等度アルツハイマー型認知症患者
  • アルツハイマー型認知症患者

吉井 康裕

神経内科部長

経歴
  • 神奈川県出身
  • 2002年 東邦大学医学部卒業
  • 2002-2003年 横須賀米海軍病院
  • 2003-2005年 東邦大学大橋病院第四内科 研修医
  • 2005-2006年 ニューヨーク べスイスラエルメディカルセンター 内科レジデント
  • 2006-2007年 東邦大学大橋病院神経内科
  • 2007年10月-2008年3月 国家公務員共済組合連合会三宿病院 神経内科
  • 2008年4月-2010年6月 東海大学分子生命科学教室
  • 2010年7月-2012年3月 東邦大学大森病院 神経内科
  • 2012年4月 医療法人こうかん会 日本鋼管病院 神経内科
  • 2020年4月 日本鋼管病院 神経内科部長
専門分野
  • 神経内科
  • 神経変性疾患
  • 認知症
  • パーキンソン病
  • 頭痛
  • てんかん
資格
  • 日本内科学会総合内科専門医・指導医
  • 日本神経学会専門医・指導医
  • 日本認知症学会専門医・指導医
  • 認知症サポート医
  • 身体障害者福祉法15条指定医(肢体不自由)
  • 難病指定医
  • 日本頭痛学会会員
  • 日本ソムリエ協会 ワインエキスパート