ドクターインタビュー

DOCTOR INTERVIEW

新たな選択肢
– 経口中絶薬での初期人工妊娠中絶治療

産婦人科

石谷 健部長

KEN ISHITANI

月経から更年期まで、女性特有のあらゆる症状に対応

当院産婦人科では婦人科系のがん、月経に関するお悩み、子宮に関する病気、更年期障害(ホルモン療法、漢方療法)などの女性に特有の病気や症状を診療しております。妊婦健診や分娩、開腹・内視鏡下手術は休止をしておりますが、薬剤による初期人工妊娠中絶を行っています。

特に月経に関するトラブルを抱える患者さんに対しては、これまで以上に注力した診療を心がけています。月経についてのお悩みは様々です。血液量が多い・生理痛がひどい・生理不順や不正出血などの症状は、病気や妊娠にかかわる問題がある可能性があります。一人ひとりに丁寧に向き合った診療を提供したいと考えておりますので、少しでも気になる症状がある場合はお早めにご相談ください。

私は2023年4月に当院に着任いたしました。現在は常勤医師1名、非常勤医師1名の2名体制で診療にあたっています。今後、小さな手術に関しては徐々に導入していこうと考えています。子宮頸部の異形成(子宮頚がんのリスクのある状態)に対するレーザー治療や円錐切除、その他の術式の手術に関しては、現在導入に向けて準備を整えている最中です。

更年期医療に注力

月経トラブルのほかにも、中高年及び老年期の患者さんに対しての「更年期医療」にも力を入れています。日本人女性の平均寿命が80歳を超えるようになった今、更年期から後の人生が昔に比べ長くなっています。日本人の女性が閉経を迎える年齢は平均50.5歳といわれており、閉経を挟んだ45~55歳の約10年間を一般的に「更年期」と呼びます。

更年期障害は閉経に伴い卵巣の働きが衰え、女性ホルモンである「エストロゲン(卵胞ホルモン)」の分泌が急激に減少することで起こります。当科では更年期障害の治療や診断にも注力し、さらに骨粗しょう症や生活習慣病の予防にもあたっています。

更年期障害の症状としては、顔のほてり・発汗異常・肩こり・耳鳴り・めまい・疲れやすい・不眠・意欲の低下・うつ状態・関節痛など様々です。さらに、エストロゲンが低下した状態が続くと高コレステロール血症・動脈硬化・骨粗しょう症・アルツハイマー型認知症を引き起こすと考えられています。

パートナーや周りの理解が大切

更年期の患者さんに対して、当科ではホルモン補充療法や漢方薬による治療など幅広い治療を行っています。その中でもとりわけ更年期からの骨粗しょう症の予防と治療に力を入れています。骨粗しょう症は60歳代の女性の約5人に1人、80歳以上の女性の約半数が発症するといわれるほど女性にとって身近な疾患です。

骨粗しょう症の患者さんは骨自体が弱く、折れた骨を回復させる力も弱いため、骨折が発生してからでは治療がなかなか難しいのです。高齢化社会の現在では、整形外科の先生の手が回らないほどの問題となっています。骨密度の急激な減少は閉経直後から始まります。早い段階からバランスのとれた食事や適度な運動、定期的な検診を心がけ予防することが大切です。

更年期医療で最も大事なのは周囲の理解です。その中でも特にパートナーの理解が一番大切です。何か特別なことをする必要はありませんが、更年期の状態があるということ、更年期障害の存在を知ることが重要です。月経と同様にただイライラしているわけではなく、体調の変化が女性に影響を与える時期であるということを認識してあげることが大切なのです。

経口中絶薬による初期人工妊娠中絶治療

2023年4月、飲む中絶薬として「メフィーゴパック」が国内で初めて承認され、販売が開始されました。当院では妊娠9週0日までの人工妊娠中絶を希望する方を対象に、メフィーゴパックによる初期人工妊娠中絶治療を行っています。

これまで日本では、初期の中絶手術は「そうは法」と「吸引法」という2つの方法で行われていました。そうは法とは、子宮の中の胎児や組織を金属の鉗子(かんし)やスプーン状の器具を使ってかき出す方法です。吸引法とは、先端に穴のあいたプラスチック製の筒などを子宮に挿入し吸い取る方法です。そうは法は子宮内に器具を入れるため、子宮の内壁を傷つけるリスクがあります。

一方で経口中絶薬は子宮に器具を入れることがなく、子宮にも精神的にも負担が少ない中絶法と考えられています。

薬による中絶と手術による中絶には、それぞれメリットとデメリットが存在しますが、経口中絶薬の承認により中絶の選択肢が増えることになりました。私は経口中絶薬の治験から長く携わってきましたので、国内での普及に貢献していきたいと考えています。

経口中絶薬の有効性・安全性とリスク

経口中絶薬は、海外では何十年も前から有効性と安全性が確認され、自宅で使用することもできる薬です。しかし、腹痛や出血などの副作用もあることから、日本ではまだ厳格な使用が求められています。母体保護法指定医師の管理下でのみ処方され、入院設備がある病院で経過観察を行います。中絶後、子宮内の組織が排出されたかを医師が確認する必要があります。

経口中絶薬は患者さんにとって多くのメリットがあります。最も大きなメリットは手術と麻酔を必要とせず、合併症のリスクを減らすことが可能な点です。

一方で経口中絶薬には副作用やリスクもあります。服用期限が妊娠9週(妊娠63日)までと限られており、初期妊娠までという制約があります。痛みについては中絶薬の場合は腹痛がみられ、また出血のリスクもあります。大量出血にいたってしまった場合や、中絶薬の処置だけでは中絶を完了できなかった場合は、外科的処置を施さねばならないこともあります。

経口中絶薬による中絶治療の流れと注意

当院で経口中絶薬による中絶治療を行う流れは次のとおりです。

まずは治療前に診察や検査を行い、当院で治療が可能かを判断します。月曜午後に来院いただき1剤目を服用します。その日は帰宅していただき、2日後の朝に来院いただいて2剤目を服用します。殆どの患者さんはこの日の日中には中絶が完了しますが、念の為1泊の入院をしていただいています。ただし、約1割未満の患者さんは薬による中絶が完了しない場合があり、その場合は全身麻酔・手動吸引法による手術が必要となります。

丁寧な説明で、患者さんの精神的負担を軽減

中絶治療後の患者さんのメンタルケアは非常に重要と考えています。そもそも中絶自体が女性にとって大きな選択であり、うつ症状や情緒不安定を引き起こす可能性があります。経口中絶薬を使用した場合、手術と異なり眠っている間に中絶が完了するわけではありません。流産を促し、子宮内容の排泄を待つことになります。手術よりも時間がかかり進行する間、出血や腹痛が数時間続くため、不安を感じる方もいると思います。また排出された胎児の姿を目にすることもあり、強いショックを受けるかもしれません。事前にしっかりとご説明し、患者さんの精神的な負担を少しでも軽減できるよう努めています。

中絶後、罪悪感に苦しまれる方も少なくありません。繰り返さないようにするためにも、今後の避妊方法について再検討することが大切です。当院ではこうした患者さんのメンタルケアと今後の相談に力を入れています。

地域の先生方へ

当科は常勤医師が1名、非常勤医師が1名の2名体制で診療にあたっています。人工妊娠中絶を含め、リスクがあると感じられる患者さんに関しても、積極的にお受け入れいたします。また終末期や中高年の患者さん、婦人科がんの患者さんで積極的な治療が必要ない場合でもご紹介ください。進行がんの症状緩和や終末期の治療など、お手伝いができると思います。CART(腹水ろ過濃縮再静注法)と呼ばれる、お腹に溜まった水を抜いて、それをろ過濃縮して点滴から戻すという治療も積極的に行っています。高齢者患者さんの婦人科悪性腫瘍の症状緩和療法にも力を入れています。

石谷 健

産婦人科部長

経歴
  • 三重県出身
  • 1994年 慶應義塾大学医学部卒業
  • 2004年 国立病院機構東京医療センター 産婦人科
  • 2005年 Brigham & Women's Hospital and Harvard Medical School
  • 2014年 東京女子医科大学 産婦人科講師
  • 2023年 日本鋼管病院、こうかんクリニック 産婦人科部長
専門分野
  • 婦人科腫瘍学
  • 更年期医学
資格
  • 日本産科婦人科学会産婦人科専門医・指導医
  • 日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医
  • 日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・幹事
  • 日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡)
  • 母体保護法指定医
  • 日本産婦人科医会常務理事
  • 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編作成副委員長
  • 日本医師会母子保健検討委員会ワーキンググループ委員