変形性膝関節症の原因
変形性膝関節症の原因は一次性と二次性に分けられています。
加齢、肥満、内反膝(O脚)や外反膝(X脚)などの下肢アライメント異常(太ももの付け根からかかとの骨までの中心線が重心とずれていること)、過度な運動負荷、遺伝子の関与などによるものが一次性、膝靭帯損傷や半月板損傷、膝関節周囲骨折などの外傷後変化や、大腿骨顆部骨壊死後や化膿性膝関節炎後などのケースは二次性と表現されています。
関節鏡視下手術とは
膝蓋骨の下に5mm程の小さな切開を2ヶ所ないしは3ヵ所作り、テレビモニターに映し出された関節内の
映像を見ながら手術器具を操作して行う最少侵襲手術(最も負担の少ない手術)であり、術後の痛みも少なく、入院期間も短く、手術の傷も目立たないので、この手術で効果が得られるのであれば一番お勧めする手術手技です。
しかし、一時的には痛みがとれても中長期成績が悪いケースや、手術前と痛みがあまり変わらないままのケースもあるので、手術法選択を慎重に行わなくてはならないのもこの手術の特徴です。
高位脛骨骨切り術とは
下肢のO脚変形に対して脛骨の近くの骨を少しだけ切除して角度を変えることで、若干X脚に矯正する手術で、古くは1960年から行われている術式です。
10年程前までは外側楔状閉鎖型骨切り術という手術が主流でしたが、身体的負担・回復時間・材料・手術技術の進歩により、最近では内側楔状開大型骨切り術が主流となっています。
これら医学の発展により術後から早期に全荷重歩行することができるようになり、2~3週での早期退院も可能となりました。
また、関節鏡視下手術との併用(下図)によって、更に術後の痛みを軽減させる効果があり、いわゆる骨切り術(下肢のアライメントを変える手術)とは一線を画したアンチエイジング効果を期待できます。
※ デブリードマン 治癒する妨げとなる、感染した組織や壊死した組織を切除・除去する処置。
※ マイクロフラクチャー 骨に小さな切れ目を入れる手術。
当院で行っている手術手技は、必ず関節鏡視下に関節内の様々な治療を行った後に骨切り術を行っており、
単なる“骨切り術”ではなく“関節形成術”と位置付けて治療しています。
さらに、人工関節置換術後では困難とされる競技スポーツへの復帰の可能性もあり、諦めかけていた中高年アスリートの膝痛に対する頼もしい治療法でもあります。
人工関節置換術とは
末期の変形性膝関節症に対応可能な手術治療で、高位脛骨骨切り術では治療不可能な症例の切り札的存在です。
術前と術後の改善度が最も優れており、まさしく劇的ビフォアー・アフターの様な治療法ですが、
感染や肺梗塞などの術後、合併症も比較的多いので症例選択は慎重に行う必要があります。
また、人工関節の耐久年数は15~20年程なので、平均寿命が世界一長い日本人においては
60~65歳以上が良い適応とされています。
治療法の選択
まずは保存療法を選択できないかを考慮し、次に手術となっても侵襲の少ない治療法が可能かどうかを順に
考えて行きますが、前述のように変形性膝関節症には様々な治療法がありますので、その選択には卓越した
専門的知識と治療経験を要します。
また、同時に患者さんとのしっかりとしたコミュニケーションがとても大切で、患者さんが何を望まれているのかも大きな治療法選択の基準となります。
高位脛骨骨切り術の位置付け
平均寿命85歳としてその人生を野球に例えると、おおよそ1イニングが10年になります。
膝の治療を投手リレーに例えると、人工関節置換術はリリーフピッチャーの抑えの切り札(クローザー)なので、せいぜい1イニングか2イニング(10~20年)しか投げさせられません。
もちろん先発投手が完投(自分の膝にメスを入れずに人生を全う)してくれれば最良なのですが、先発投手(自分の元気な膝)が早々とノックアウトされてしまった場合はどうすれば良いのでしょうか?
野球では近年、中継ぎ投手(セットアッパー)の重要性がクローズアップされております。
膝における高位脛骨骨切り術はまさにこのセットアッパーの存在となります。
中年(40~60歳位)の膝痛で、抑えの切り札(人工関節)を出すには早過ぎる場面や、7回~8回でも抑えの切り札まで出さなくても良い場面など、セットアッパー(骨切り術)の存在は大変重要で重宝されます。
余裕のあるゲーム展開であればそのままクローザ―(人工関節)を出さないままゲーム(人生)を終了できます。この強力なセットアッパーこそが高位脛骨骨切り術だと思って下さい。