「疼痛」はその生理学的な発生機序により、通常の疼痛刺激伝導路を介する侵害受容性疼痛(一般には外傷や手術後の急性痛)、および、神経自体に障害を伴う結果として痛覚過敏を生じる神経障害性疼痛(慢性痛)に大別されますが、両者が混在している場合も少なくありません。
治療を行っていく段階としては、もっとも低侵襲なもの(=薬物療法)から開始し、これらで不十分な場合には次の侵襲的な段階に向かうのが原則です。
ただし、最初から激痛を訴える場合には、血液検査で肝機能・腎機能・血液凝固系に異常のないことを確認した上で、神経ブロックをレスキュー的に行う場合があります。
薬物療法では一般に、急性痛の強さに対応してアセトアミノフェンや非ステロイド抗炎症薬(セレコキシブなど)、弱オピオイド(コデインなど)、強オピオイド(モルヒネなど)から選択します。
いずれの薬物にも副作用を伴いますので、その効果と副作用を監視しながら副作用対策(悪心・嘔吐→制吐薬、便秘→緩下薬など)を加えるとともに投与量調節を行います。
一方、神経障害性疼痛に対しては通常の鎮痛薬が効きにくいため、これらの特殊な疼痛に有効な抗うつ薬(三環系抗うつ薬、SNRIなど)や抗けいれん薬(クロナゼパム,プレガバリン)を用いた治療を行います。
神経ブロックは「罹患神経を見いだすための診断的ブロック」と「疼痛緩和を目的とした治療的ブロック」、用いる手技により「一時的ブロック(局所麻酔薬)」と「半永久的ブロック(神経破壊薬、高周波熱凝固)」、また、対象となる神経の種類により「感覚神経ブロック」と「交感神経ブロック」に分けられます。
当外来で行うブロックは、局所麻酔薬を使用した一時的ブロックです。
局所麻酔薬自体の作用持続時間は1時間弱程度ですが、痛みの悪循環を一時的に遮断することにより、疾患によっては数日~数週間程度の疼痛緩和をもたらす場合があります。
また、疼痛の部位によって神経ブロックの部位も異なりますが、例えば上肢痛に対する腕神経叢ブロックでは、超音波エコーガイドの併用による極めて安全性の高い手技を採用しています。
神経破壊薬や高周波熱凝固の対象となる疾患(がん性疼痛の一部、三叉神経痛、椎間関節痛など)は限られていますが、いずれも入院を必要とします。
左写真:超音波エコー画像
入念に画像を確認しながら手技を進めます。
複合性局所疼痛症候群をはじめとする治療抵抗性の慢性疼痛に対しては、「脊髄電気刺激療法」を選択する場合があります。
この方法では、疼痛領域を支配する脊髄硬膜外腔に刺激電極(右写真)を挿入し、微弱な電流を流すことで目的を達します。
まずは入院していただき、経皮的に電極を挿入し、体外の刺激装置と接続することで電気刺激を加え、数日間鎮痛効果を実際に確認していただきます。
このトライアル期間終了後、電極を抜去していったん退院となります。
ここで鎮痛効果に十分満足いただけた場合、約3~4週間後に電極挿入と刺激装置(心臓ペースメーカとほぼ同等のサイズで体外充電式です)の体内植え込み術(腰背部)を再度受けていただくことになります。
植え込み後、電極のわずかな位置移動が刺激の適切さに影響しますが、約1か月程度で安定した刺激が得られるようになります。
慢性疼痛の治療は必ずしも容易なものではありませんが、以上にご紹介したように現在ではさまざまな手段が利用可能です。
慢性疼痛にお悩みの方、ご不明な点がある場合は、毎週水・金曜午後のペインクリニック外来を受診のうえご相談下さい。